進行・再発例(3)

Q3.抗がん剤治療は吐き気などの副作用が大変辛いと聞いたことがあります。肉腫に対して用いられる抗がん剤の副作用にはどのようなものがあるのでしょうか?
 
下井先生写真(トリミング)回答者:下井 辰徳先生
国立がん研究センター中央病院 乳腺・腫瘍内科
 
 
 
 
A.個別の治療法の定まっていない骨軟部肉腫に対して、2016年7月時点で承認されている薬剤は、ドキソルビシン(アドリアマイシンも同じ薬剤)、イホスファミド、パゾパニブ、トラベクテジン、エリブリンなどがあります。
 

また、特定の組織型としてはユーイング肉腫や横紋筋肉腫、骨肉腫などでは個別の治療薬が承認されています。
さらに、血管肉腫にはパクリタキセルが承認されています。
これらの薬剤は、一般的な副作用と、それぞれの薬剤に特徴的な副作用があります。

 
一般的な副作用は、薬剤によらず、同じような時期に出現します。
悪心や嘔吐は投与後1週間以内が多く、同じ時期に全身のだるさを実感します。
1週間後は口内炎の副作用が認められる場合があります。
投与後2週間程度で白血球が低下する時期があり、この時期に発熱を起こすこともあります。
特に白血球が少ない時期に発熱すると、発熱性好中球減少症といって、重症の感染症の可能性を示唆します。
繰り返し投与することで皮膚や爪が荒れたり、色素沈着(皮膚の黒ずみ)を起こすこともあります。

 
これらとは別の副作用としては、薬剤ごとに特徴的な副作用があります。
 
ドキソルビシン/アドリアマイシンは蓄積用量による心機能低下が知られています。
投与総量が400mg/㎡を超えると、心機能低下の頻度が10%を超えるため、上記を超えないように基準を設けている場合が多いです。
心機能低下はこれ以下の投与量でも起こることはありますが、自覚症状としては動いたときの呼吸苦、だるさ、体の浮腫みなどを認めることがあります。
また、ドキソルビシン/アドリアマイシンは血管痛も時々認めます。

 
イホスファミドは10-20%程度の人で、投与中に脳症を起こすことがあります。
目の前に色鮮やかな幻視を見たり、居場所が分からない混乱状態になったり、ひどいと痙攣を起こすこともあります。
投与量が多いほど、起こる確率は上がることが分かっている一方で、投与を終了すると、自然と良くなることが多いとされています。
また、イホスファミドでは出血性膀胱炎という、尿に血が混じることがあります。
少ないものを含めると、20%程度の頻度とされていますが、点適量を多くして尿量を増やすことで対応できます。

 
パゾパニブは、だるさ、下痢、発疹、肝機能障害が多い副作用になります。
パゾパニブは連日の内服薬ですので、これらの副作用がつらい場合には、減量を考慮します。過去の臨床試験においても、6-8割程度の最終的な投与量であったとされています。

 
エリブリンは、毎週投与(1日目と8日目に注射投与して、15日目は休みで22日ごとに繰り返す)のスケジュールです。
エリブリンに特徴的な副作用としては、投与当日から数日の間に発熱することがあります。
薬剤性の発熱とされていますが、特に8日目に投与するときには、好中球減少期の発熱と区別がつかないこともあります。
また、投与後のだるさ、繰り返し投与をすると蓄積性にしびれが出現する(徐々に悪化してしまう)ことも生活に関わる副作用です。

 
トラベクテジンは気持ち悪さ、肝機能障害が特徴的な副作用です。肝機能障害は投与数日後が最も悪化する時期ですが、1週間くらいで元の肝機能に戻っていきます。
また、まれではありますが、横紋筋融解症という、薬剤が原因で筋肉が溶けてしまう重症の副作用が数%の頻度で起こることが知られています。
全身どこかの筋肉が痛くなり、尿が赤茶色になる(筋肉の成分が尿中に溶け出す)という症状がありえます。
特に投与1-2サイクル目に多い副作用とされていますので、尿の出が悪い、尿の色が濃い、体が痛いなど、なんらかの異常がある場合には、担当医にご相談されるのがよいと思います。

 
表、各薬剤と一般的な副作用の頻度* (カッコ内は重症者の頻度)

レジメンと1サイクルの用量 ドキソルビシン/アドリアマイシン
(75mg/㎡)
イホスファミド

(2g/㎡, day1-3)

エリブリン

(1.4mg/㎡ day1, 8)

パゾパニブ

(800mg/body)

トラベクテジン

(1.2mg/㎡)

報告者・年 Javier Martin-Broto

2016

Howard D. Homesley

2007

Patrick Schoff ski

2016

Winette T A van der Graaf

2012

Akira Kawai

2015

倦怠感 60% (4%) 10% (5%) 40% (3%) 80% (14%) 20% (3%)
下痢 20% (0%) NR 20% (1%) 60% (5%) 20% (3%)
悪心 50% (2%) 20% (1%) 40% (1%) 60% (3%) 90% (8%)
体重減少 NR NR NR 50% (0%) NR
高血圧 NR NR NR 40% (7%) NR
AST 上昇 10% (0%) 10% (3%) NR 10% 50% (41%)
ALT 上昇 10% (0%) 10% (3%) NR 10% 70% (61%)
末梢神経障害 NR 10% (0%) 20% (2%) NR NR
好中球減少 50% (36%) 60% (37%) 40% (35%) NR 80% (67%)
貧血 50% (2%) 50% (8%) 30% (7%) NR NR
血小板減少 20% (2%) 20% (3%) 10% (0%) 40% (3%) 40% (17%)

*論文の報告数を四捨五入している。
※表中の「NR」とは、「not reported:論文中では具体的に報告されていなかったため、頻度不明」のこと。
 
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