Q11.大腿骨遠位の骨肉腫に対して、手術と人工膝関節による手術が予定されています。術後どれくらい歩けるのでしょうか?走ることは可能でしょうか?また、人工関節は感染や緩みなどの合併症のリスクがあると聞きましたが、術後の生活で何か気をつけることはありますか?
┃回答者:藤原 智洋先生
岡山大学医学部 整形外科
A.骨肉腫などの悪性の骨腫瘍に対する手術としては、筋肉や脂肪など周囲の正常組織で腫瘍を包み込むように切除すること(広範切除術)が、手術後の再発を防ぐために必要と考えられています。
最近の研究では、腫瘍と一緒に切除する正常組織の幅(マージンといいます)は、抗がん剤が良く効いた場合には1 cm以下に小さくできることがわかってきましたが、抗がん剤の効きが悪い場合には2 cm以上のマージンをとらないと再発を生じる危険性が高くなってしまうことが示されています。
悪性の骨腫瘍の手術においては、何よりもまず、このようなマージンをとりながらきちんと病気を取りきること(=病気から患者さんを救うこと)が一番に優先されますが、もちろん一方で、手術後の患者さんの機能障害ができるだけ小さくなるよう、不必要な切除は行わないように綿密な手術計画が立てられます。
残念ながら、一旦切除された筋肉が元通りに再生することはないため、切除した筋肉の分だけ筋力は低下してしまいます。
また、筋肉の働きをつかさどる重要な神経(大腿神経や坐骨神経)が切除される場合も筋力は失われます。
術後の積極的なリハビリテーションにより、残された周囲の筋肉が失われた筋肉の働きを補うこともある程度は期待できますが、完全に元通りというわけではありません。
大腿骨遠位の骨肉腫の場合、大腿骨とともに膝関節を伸ばす働きをする筋肉(大腿四頭筋とよばれる太ももの前方にある筋肉)の一部を切除し、腫瘍用の特殊な人工膝関節に置き換える手術が、最も安全かつ安定した患肢温存術式として広く行われています。
この場合、最終的な膝関節の曲がりの角度は約90度~100度で、多くの方は杖を使用せず平地を歩くことができるようになりますが、多くの筋肉や重要な神経の切除が必要となった場合には、歩行に杖が必要になることもあります。
また、膝を伸ばす力が弱くなるため、膝が曲がった状態で体重をかけると、膝がかくっと急に曲がってしまう膝折れ現象を生じる可能性があり、術後リハビリテーションで安全な歩き方のコツをきちんとつかむことも重要です。
小走り程度は可能となる方が多いですが、長距離を走ったり、全力疾走を行ったりすることは、後述するような人工関節の緩みや破損等の原因にもなりますので、あまり行わないようにした方が良いといわれています。
すでにお聞きになっておられるように、人工関節の手術後には、感染、人工関節の緩みや破損などの合併症を生じるリスクがあります。
悪性腫瘍を切除したのち人工膝関節で患肢温存を行った患者さんが、術後5年間トラブルなく人工関節を入れ替えたりせずにすむ可能性は70〜90%程度と報告されています。
言い換えれば、10~30%の方は、再手術など何らかの処置が必要になる可能性があるということです。
したがって、術後の生活では、激しいスポーツなど人工関節に大きな負荷をかける活動を控えることや、下肢を怪我したり、巻き爪が感染したりした場合などには、人工関節の感染の危険性をさけるために医療期間で早めに適切な手当てを受けることなど、日常生活の中で細やかな注意をしていくことも重要になってきます。
下肢の機能や歩行能力は、切除する腫瘍の部位、大きさ、深さ、骨や筋肉の切除量や神経の切除の有無によってさまざまです。
スポーツや活動量の高い生活を希望される場合、逆説的ではありますが、むしろ脚を切断して義足をつけた方が、パラリンピックの選手のように制限なく高い運動能力を発揮できる場合もあります。
手術後どのような生活を望むのか、御自身の最も大事にしたいことは何か、など、手術の前に担当の先生と十分に相談して、最も納得のいく手術方法を選ばれることが大切だと思います。
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