進行・再発例(11)

Q11.昨年、左背部に13センチほど腫瘤に気がつき、大学病院を受診しました。生検の結果、未分化多形肉腫ということでしたが、腫瘤の大きさと年齢も考えて、主治医より重粒子線での治療を勧められ実施しました。
その後抗がん剤(AI療法)をしましたが、抑うつ状態となり1クールで中止になりました。9か月後に実施したPET-CT検査で左肺の中葉に6ミリ程度と下葉に2センチ弱の転移が見つかり、新しく変わった主治医の先生からは抗がん剤の治療を示されました。
前回の抗がん剤治療の際に、副作用が酷く中止なったこともあり、抗がん剤には抵抗があります。
数が少ない、小さい転移がんは手術したほうが予後が良いとの、ある大学の論文を見ましたが、主治医の先生は放射線、手術は選択肢にはないようです。私としては、抗がん剤が効かず腫瘍が大きくなるのも心配で悩んでおります。
どういう治療がよいのか、ご助言をいただけますでしょうか。

(質問者:72歳 女性)


 
下井先生写真(トリミング)回答者:下井 辰徳先生
国立がん研究センター中央病院 乳腺・腫瘍内科
 
 
 
 
A.ご質問ありがとうございます。
今回、肺転移再発病変の切除に関して、ご検討させていただきます。
もともと、左背部の未分化多形肉腫の診断ですので、それが肺に出現したとなると、全身を回ってから肺で定着して大きくなってきたと考えます。
そのため、一般的には全身病の一部が肺で画像上わかる様になっていると解釈をします。
CTなどでわかる大きさ(一般的には5mm程度)を超えているものが、少数肺に認められるという解釈になります。
その場合、治療の目標は病気の根絶はなかなか成し難く、病気との共存が目標となってきます。

 
転移病変が主体の場合の、手術(外科切除)や放射線治療という治療は、1箇所の治療となりますので、それを行うには行うに足る理由・目的が必要となります。
具体的には、手術することで寿命が延びるのか、それとも症状が楽になるのかです。
数が少ない、小さい肺転移は手術した人の予後が良い、という、おっしゃっておられるような報告は散見されます(Ann Surg. 1999;229:602-10, Ann Thorac Surg
. 2009;88:877-85, Acta Orthop Scand. 1995;66:561-8, Cancer. 1996;77:675-82.)。
これらの報告は、個々の施設で行われている、「オレの経験」の域を出ない報告になります。
特に、これらの報告を見る上で最も注意が必要なのは、手術をする場合としない場合の人同士の比較については、比較そのものをしてもよい患者さん達なのかという点です。
その理由を具体的に3つ述べさせていただきます。

 
1つ目として、もともと、小さい肺転移で見つかる人のほうが、肉腫としてはゆっくり進むものである可能性があります(通常の軟部肉腫でもそうですが、とくにユーイング肉腫や骨肉腫などでは、そういった患者さんが一定数いることがわかっています。)。
そういった方のほうが手術可能な状態で見つかることが多いため、結果として手術されている患者さん達の中に多く含まれていると思われます(選択バイアスといいます。)。

 
また2つ目として、症状が出てから治療導入した場合と比較して、早期に診断・手術された人の方が、見かけ上長生きしているように見える(検診の世界ではリード・タイム・バイアスという。) の可能性があります(詳しくは、科学的根拠に基づくがん検診推進のページhttp://canscreen.ncc.go.jp/kangae/kangae3.htmlをご参照ください)。
 
他には、3つ目として、手術で取れる肺転移の小ささの人の方が、手術ができない体調や、肺転移が大きすぎて手術ができない人たちと比較すると、体調が良いために、予後が長い可能性があります。
これでは、もともとの体調の良し悪しを診ているのか、手術が予後を改善したことを診ているのか、結果が指し示すものはどっちか良くわからないという結論になってしまいます(選択バイアスといいます。)。

 
つまり、「小さい肺転移に対して手術をすること」のみが純粋に、予後改善に効果があるかを確かめる場合、体調的に手術が可能な、小さい少ない肺転移の方を、ランダムに手術をする場合としない場合に分けてその後は経過を見て、最終的に手術をした人たちの方で予後が良いことを示す必要があります。
こういった研究が現状ではなされていないため、現時点では、手術は予後改善に意味があるかもしれないし、ないかもしれない、わからないという解釈になっています。

 
そうなると、立ち戻って、手術で症状が何か楽になる場合には、手術をすることの利益はありますが、予後を改善するという目的自体は、手術で成し得るかわからないという結論になります。
 
私たち、腫瘍内科で診療されている患者さんへは、再発病変に手術を積極的にお勧めするわけではありません。
ただし、肺病変が再発病変かがわからない場合には診断のためにご推奨することがあります。
また、局所再発の手術、症状がある場合の手術ついては、状態に応じて、ご推奨することがあります。

 
無症状の小さい肺転移巣の切除を考える場合、一般的には以下の4項目を満たしていることが必要とされます(①胸膜転移や胸水、縦隔肺門リンパ節転移が無く、肺以外の病変はない、②原発巣病巣が落ち着いている、③肺転移を切除することが妥当と考えられる、④病変の完全切除が可能)。
 
よって、今回の相談者さんの場合には、われわれでも抗がん剤治療をご提案することにはなると思いますが、抗がん剤治療それ自体も、転移性の未分化多形肉腫の方で、予後を改善するというデータがあるわけではありません。
よって、肺転移があるため早急に抗がん剤をご推奨するとは限らず、しばらく経過観察の上、肺転移の進行状況に応じて、治療導入をご相談することがあります。

 

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最終更新日: 2016年11月20日